Paracalanus parvus s.l.の雌雄

 カラヌス目パラカラヌス科に属する、体長約1mmのカイアシ類です。瀬戸内海で通年見られ、浮遊性カイアシ類の中で最も多く存在する種です。オスとメスとで形態が違うことを生物学では性的二型といいますが、Paracalanus parvus s.l.においてこの性的二型は以下のようなものがあります。

 

図1.Paracalanus parvus s.l.のオス

 

 オスはメスに比べて、全体的に筋肉質でスリムな体型をしています(図1-A)。これには理由があり、このParacalanus parvus s.l.のオスは短命で、コペポディット幼体X期から脱皮して成体になると餌も食べずにメスを探して生殖を行い、その後すぐに死んでしまいます。よって環境中に存在するParacalanus parvus s.l.の90%近くがメスで、オスはあまり見当たりません。

 オスのその他の特徴として、第一触角にある感覚毛が発達しています第一触角に存在する刺毛と感覚毛は機能が異なり(図1-B)、刺毛は水流などの物理的刺激の感覚器で、感覚毛は化学感覚器です。Paracalanus parvus s.l.は生殖の際、オスはメスから出される性フェロモンを手掛かりにしてメスを探します。よって、生殖だけを行うオスは、感覚毛を発達させたと考えられています。

 次に顎脚(図1-C、2-C)は、摂餌のための付属肢ですが、オスは餌をとらないためメスに比べると貧弱です。また、他の付属肢に関しても、性的二型は存在します。

 オスの後体部は5節(図1-D)から成っています。そして、第5胸脚の左脚が右脚2節に対して、5節に伸長していますこれは生殖に関わる重要な構造で、交尾の際、オスはメスを背側から顎脚(図1-C)を使って抱きかかえます。そして、精子の詰まった精包(spermatophore)という袋をこの左脚の先に付けて、メスの生殖孔(図2-D)に受け渡します。つまり、精包を確実に受け渡すための構造進化と言えます。

 

図2.Paracalanus parvus s.l.のメス

  

 メスはオスよりもふっくらとした体型していてます(図2-A)。

 そして、第一触角には刺毛と感覚毛は均等に存在し(図2-B)、餌を探したり、捕食者を察知して逃げたりするのに役立ちます。

 顎脚はオスと異なり(図2-C)、先端に多くの毛が生えています。これによって水流を起こし口に植物プランクトンを送り込み、摂餌します。メスの後体部は4節の構造(図2-D)をしていて第一節が生殖節と呼ばれています。生殖節は写真でも分かるように、横から見ると腹側が少し膨らんでいます。ここには生殖孔という開閉式の穴があり、ここにオスから受け取った精包がくっつきます。精包内の精子は生殖孔を通って、で示した受精嚢(seminal receptacle)という精子の貯蔵庫に貯められます。メスはここに貯まった精子を必要な分使い、輸卵管から送られた卵と受精させます。また、メスの第5胸脚は両脚とも2節の構造をしていて、生殖孔についた精包の残りカスなどをこそぎ落としたり、掃除をしたりする役割を果たします。

このParacalanus parvus s.l.の性的二型の一つである第5胸脚に関して、一部のメスで全体的な特徴がメスであるのにもかかわらず、第5胸脚の左脚がオスに類似した構造を持つものが見られる事があります。現在、この性的二型の異常について研究を行っており、その内容を次に紹介します。

 

Paracalanus parvus s.l.の性的二型異常